仮面舞踏会の告白、そして裏切り
Chapter 1 — 仮面舞踏会の告白、そして裏切り
シャンデリアの光が反射し、まるで宝石箱をひっくり返したかのような絢爛豪華な舞踏会。こんな場違いな場所に、なぜ私がいるのだろうか——そう思った瞬間、背後から優しい声が聞こえた。「紗良、少し遅かったじゃないか。」
振り返ると、そこに立っていたのは園田岳。園田グループの御曹司であり、私の婚約者だ。漆黒のタキシードに身を包み、いつもよりどこか大人びて見える。彼の微笑みは相変わらず人を惹きつける魅力に溢れていた。
「ごめんなさい、岳さん。少し道が混んでいて。」
私は作り笑いを浮かべながら答えた。本当は、今日のこの舞踏会にどうしても参加したくなかったのだ。なぜなら、今夜ここで、岳さんから衝撃的な告白を受けることを知っていたから。
私たちは、親同士が決めた許嫁だった。名門同士の繋がりを強固にするための、政略結婚。お互いに愛情はなかったけれど、それなりに友好的な関係を築けていた。少なくとも、私はそう思っていた。
「まあ、いいんだ。それより、少し話があるんだ。」岳さんはそう言うと、私の手を引き、バルコニーへと向かった。夜風が心地よく、庭園のライトアップが幻想的な雰囲気を醸し出している。
「あのね、紗良。」岳さんは少し言いづらそうに言葉を切り出した。「実は、好きな人ができたんだ。」
予想通りの言葉だった。胸が締め付けられるような痛みを感じながらも、私は平静を装った。「そう…ですか。」
「彼女の名前は、桜井渚。君も知っていると思う。僕の会社の秘書だ。」
渚さんの名前が出た瞬間、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。渚さんは、私にとって唯一無二の親友だった。まさか、親友と婚約者が…そんな事態が現実になるとは、夢にも思わなかった。
「渚さんが…ですか。」私の声は震えていた。
岳さんは申し訳なさそうに私を見た。「本当にすまない。君のことは尊敬しているし、感謝もしている。でも、渚への気持ちは抑えられないんだ。」
「…分かります。」私は絞り出すように言った。「お二人が幸せなら、それが一番です。」
嘘だ。本当は、今すぐにでも泣き叫びたいくらい辛かった。でも、ここで取り乱すわけにはいかない。私は如月紗良。如月グループの令嬢として、常に冷静でなければならない。
「ありがとう、紗良。君は本当に優しいね。」岳さんはそう言うと、私を抱きしめようとした。私は咄嗟に身をかわした。
「もう、触らないでください。」
私の冷たい言葉に、岳さんは驚いたように目を見開いた。「紗良…?」
「婚約は解消します。それと、もう二度と私の前に現れないでください。」
私はそう言い放ち、踵を返して舞踏会場へと戻った。華やかな音楽が耳に響く。人々が楽しそうに踊っている。まるで、私だけが違う世界にいるかのようだった。
会場の隅に、渚さんの姿を見つけた。彼女は岳さんと目が合うと、微笑みを浮かべた。その瞬間、私は全てを悟った。これは、ただの恋愛沙汰ではない。もっと深い、もっと複雑な陰謀が渦巻いているのだと。
渚さんがゆっくりとこちらに歩いてくる。「紗良、少しお話があるの。」
彼女の瞳は、今まで見たことのないほど冷たく、そして…勝利の光で輝いていた。「岳さんとの婚約、おめでとうございます」私はそう言葉を返そうとした瞬間、彼女は信じられない一言を口にした。「…私が、如月グループを乗っ取るわ。」