お正月だけの彼氏を、レンタルしました
Chapter 1 — お正月だけの彼氏を、レンタルしました
「また、お見合いの話…?」
表参道のカフェ、喧騒とは隔絶された個室で、私はため息をついた。目の前に座る母は、いつものように穏やかな微笑みを浮かべているが、その奥にある圧力は隠せない。
「陽菜、あなたももう二十五歳。椎名家の娘として、そろそろ身を固めてもいい年頃でしょう?」
椎名家。それは、私が生まれた時から背負っている重荷だった。由緒正しい家柄、数々の伝統、そして、それを守るための政略結婚。
「でも、お母様、私はまだ…」
言葉を濁す私を遮り、母は続ける。「相手は名門、東条グループの御曹司よ。申し分のないお相手でしょう?」
東条グループ。聞くだけで気が重くなるような名前だ。私は、ただ普通の恋愛をして、自分の気持ちで結婚相手を選びたかった。
「…少し、考えさせてください」
そう言って、私はカフェを飛び出した。逃げるように、表参道の雑踏に紛れ込む。眩いイルミネーションが、今の私の心境とは裏腹に、やけに浮ついて見えた。
「椎名…?」
聞き覚えのある声に、私は足を止めた。声の主を探すと、そこに立っていたのは、高校時代のクラスメイト、八神駿だった。スラリとした長身、涼やかな眼差しは、あの頃の面影を残しつつも、どこか大人びて見える。
「八神くん…? 久しぶり」
「ああ、久しぶりだな。こんなところで会うなんて、珍しい」
彼は、少し驚いたように目を丸くした。八神くんは、高校時代から頭脳明晰で、クールな印象だった。卒業後、彼が巨大IT企業の御曹司だと知った時は、正直驚いた。
「どうしたんだ? 顔色が悪いぞ」
心配そうな彼の言葉に、私はつい、弱音を吐いてしまった。「…また、お見合いの話があって…」
事情を説明すると、彼はしばらく考え込んだ後、 неожиданно に、こう言った。
「…それなら、俺と、偽物の婚約者にならないか?」
予想外の提案に、私は言葉を失った。「え…?」
彼は、薄く笑みを浮かべた。「…ただし、条件がある」
その条件とは、一体何なのか? 私は、彼の言葉に、一抹の不安と、言いようのない期待を抱き始めた。