先生の唇は、授業より甘かった

Chapter 1 — 先生の唇は、授業より甘かった

「先生…好きです」

放課後の教室。夕焼けが差し込む中、瀬戸和花の透き通るような声が、静寂を切り裂いた。彼女の瞳は潤み、まっすぐ俺、天海信を見つめている。30歳、高校の国語教師。まさか教え子から告白されるなんて、夢にも思わなかった。

「瀬戸さん…」

動揺を隠せない。彼女は成績優秀、容姿端麗。学校中の憧れの的だ。そんな彼女が、なぜ俺に?

「先生の授業が好き。先生の優しい声が好き。先生の…全部が好きなんです」

和花の言葉は、まるで詩の一節のようだった。しかし、その言葉が俺の胸に深く突き刺さる。教師として、生徒からの好意は嬉しい。だが、これは越えてはいけない一線だ。

「気持ちは嬉しいけど…僕は先生だ。君は生徒。そういう関係は…」

言葉を濁す。彼女の期待に満ちた瞳を、見ることができない。

「分かっています。先生には迷惑だってことも…でも、どうしても伝えたかったんです」

和花の肩が震えている。彼女は、一体どんな気持ちでこの告白をしたのだろうか。

「瀬戸さん…君には、もっとふさわしい人がいる。僕は…」

言いかけた時、和花が突然、俺のネクタイを掴み、引き寄せた。

「先生…一度だけでいいから…」

彼女の顔が近づく。甘い香りが鼻をくすぐり、思考を麻痺させる。夕焼け色の光の中で、彼女の唇がゆっくりと近づいてくる。

気づいたときには、もう遅かった。和花の柔らかい唇が、俺の唇を塞いでいた。短い、けれど忘れられないキス。

その瞬間、教室のドアが勢いよく開いた。

「和花!こんなところで何をしている!」

怒りに満ちた声が響く。ドアの向こうには、鬼のような形相をした、和花の父親が立っていた。