SNSのカップル投稿が、バズってしまった

Chapter 1 — SNSのカップル投稿が、バズってしまった

「西園寺、悪いけど、今すぐ彼氏のフリしてくれない?」

合コン開始3分。才色兼備の同僚、明石心春が発した衝撃の一言に、僕は持っていたハイボールを危うく床にぶちまけそうになった。よりによって、なぜ僕なんだ? 社内でも高嶺の花として有名な彼女の頼み事となれば、下心満載の男たちが列をなして順番待ちをしているはずなのに。

「え、明石さん、それ、どういう…」

僕は慌てて聞き返した。場所は表参道の洒落たバー。大手IT企業「ネクスト・イノベーション」の同僚たちとの、半ば強制参加の合コンだ。正直、こういう場は苦手だった。騒がしいし、気を遣うし、何よりも自分の市場価値を改めて認識させられる気がして、憂鬱になる。

「説明してる時間ないの。お願い、西園寺くんしか頼める人がいないのよ」

心春はそう言うと、少し焦った様子で周囲を見回した。彼女の視線の先には、明らかに彼女にロックオンしているであろう、見るからにチャラそうな男たちが数人。なるほど、そういうことか。

「…まさか、誰かに言い寄られて困ってるんですか?」

「半分正解。でも、それだけじゃないの。実は…」

心春は少し躊躇した後、意を決したように僕の耳元に顔を寄せ、小さな声で囁いた。「…お見合いの話、断り切れなかったの。今週末、両親に相手を紹介されることになってて。でも、私はまだ結婚する気なんて全然ないし。だから、彼氏がいるってことにすれば、何とか逃げ切れるかなって…」

お見合い。現代の東京で、まさかそんな古典的なイベントが繰り広げられているとは。しかも、あの明石心春が、お見合いを迫られているとは。

「それで、僕に彼氏のフリを、と」

「そう。お願い。西園寺くんなら、きっと上手くやってくれると思うの。それに、もしバレても、西園寺くんには迷惑かけないから。責任は全部私が取るわ」

彼女の必死な表情を見て、僕は迷った。正直、面倒なことには巻き込まれたくない。でも、困っている彼女を見捨てることもできない。それに、社内で憧れの存在である彼女の頼みとなれば、悪い気はしないのも事実だ。

「…分かりました。明石さんの頼みです。引き受けましょう」

僕がそう答えると、心春はパッと表情を明るくし、「ありがとう! 本当に助かるわ!」と、僕の腕に軽く触れた。その瞬間、心臓がドキッとしたのは、きっと照明のせいだろう。

「ただし、条件があります」

僕がそう言うと、彼女は少し警戒したように身構えた。「条件…ですか?」

「ええ。偽物の彼氏を演じる以上、それなりの覚悟が必要です。まず、今後の打ち合わせは全て業務時間外で。それから…」

僕は、これから始まるであろう偽装恋愛劇の、詳細なルールを説明しようとした。しかし、その時、背後から聞き覚えのある声が響いた。

「あら、心春。誰かと思えば、西園寺くんじゃない。ずいぶんと親密そうね」

振り返ると、そこには、人事部長の黒崎さんが、にこやかな笑顔で立っていた。その目は、しかし、全く笑っていなかった。この状況、まずい。