ラスボス令嬢の優雅な日常
Chapter 1 — ラスボス令嬢の優雅な日常
「……嘘でしょう?」
豪華絢爛な王宮の晩餐会。シャンデリアの光が容赦なく照らし出すのは、私、アデリーナ・フォン・クライストの絶望に染まった顔だった。だって、目の前で婚約者のセドリック王子が、平民の少女ユリアの手を取り、高らかに宣言したのだから。
「アデリーナ嬢との婚約は破棄する! 余が愛するのはユリア、彼女だけだ!」
……ああ、やっぱり。前世でプレイした乙女ゲーム『聖女と七つの宝石』の、まさに断罪シーンそのままだ。
よりにもよって、私が悪役令嬢アデリーナに転生するなんて。しかも、ゲーム知識があるからこそ、この先の破滅エンドが鮮明に見える。
父であるクライスト公爵は、信じられないといった表情でセドリック王子を睨みつけている。母はハンカチで顔を覆い、今にも泣き出しそうだ。周囲の貴族たちは、ゴシップの匂いを嗅ぎつけて、ざわめき始めている。
ああ、もう最悪だ。これから私はどうなるの? ゲーム通りなら、ありもしない罪を捏造されて、国外追放か、最悪、処刑……?
セドリック王子は、ユリアの手を握ったまま、陶酔したようにユリアを見つめている。ユリアは、控えめに微笑みながら、王子に寄り添っている。その姿は、まさに清純な聖女そのものだ。……いや、演技だって知ってるんだから。
「アデリーナ嬢は、その高慢な態度で、何度もユリアを虐げてきた。余は、その事実を知りながら、見て見ぬふりをすることはできなかった!」
セドリック王子の言葉に、会場がさらに大きくざわめく。違うわ! 私はユリアなんて一度も虐げていない! そもそも、話したことすらない!
「……セドリック殿下」
震える声で、私はセドリック王子に話しかけた。今ここで何か言わなければ、本当にゲーム通りの展開になってしまう。
「私は、ユリア様を虐げた覚えなど、一度もありません。それは、誤解です」
必死に訴える私を、セドリック王子は冷たい目で見下ろした。
「まだ言い訳をするのか、アデリーナ嬢。お前の悪事は、全て明るみに出ているのだ」
……もうダメだ。セドリック王子は、完全にユリアに操られている。このままでは、何を言っても無駄だ。
父が何か言おうとした瞬間、王宮の扉が開き、一人の青年が入ってきた。美しい銀髪と、吸い込まれるような蒼い瞳を持つ、第二王子ギルベルト殿下だ。
ゲームでは、アデリーナの幼馴染で、攻略対象の一人だったはず。ただ、彼はアデリーナに全く興味がなく、むしろ嫌っていたような……。
ギルベルト殿下は、ゆっくりと歩み寄り、セドリック王子の隣に立った。
「兄上、少しよろしいでしょうか」
低い声で、ギルベルト殿下が言った。その声音は、普段の彼からは想像もできないほど冷たい。
「アデリーナ嬢の処分は、もう少し待っていただきたい。彼女には、まだ話すべきことがあるはずです」
ギルベルト殿下の言葉に、会場の空気が一瞬にして凍りついた。彼は、一体何を考えているのだろうか? ゲームでは、アデリーナを見捨てるはずなのに……。
セドリック王子は、不機嫌そうに眉をひそめた。
「ギルベルト、お前は一体何を考えているんだ? アデリーナの悪事は明白だ。庇う必要などない!」
「……兄上。私はただ、真実を知りたいだけです」
ギルベルト殿下は、そう言いながら、ゆっくりと私の方を向いた。その蒼い瞳が、私を射抜くように見つめてくる。
「アデリーナ嬢。あなたには、アリバイがありますか?」
その瞬間、私の脳裏に、ある記憶が蘇った。……晩餐会の数日前、ユリアとすれ違った際、彼女が落としたハンカチを拾って渡したのだ。そのハンカチには、クライスト家の紋章が刺繍されていた……。
「……!」
私は、思わず息を呑んだ。ユリアは、最初から私を陥れるつもりだったんだ。そして、ギルベルト殿下は、それに気づいている……?
次の瞬間、ギルベルト殿下が、信じられない言葉を口にした。
「アデリーナ嬢。……私と、婚約してください」