十年越しの告白を、桜の下でもう一度
Chapter 1 — 十年越しの告白を、桜の下でもう一度
降り止んだばかりの雨に濡れた紫陽花が、鎌倉の石畳に鮮やかに映える。その光景をぼんやりと眺めながら、双葉は深い溜息をついた。まるで今の自分の心を映し出しているかのようだ——色鮮やかだが、どこか憂いを帯びている。
まさか、本当にあの日に戻ってきてしまうなんて。
一週間前、双葉は交通事故で命を落としたはずだった。やりたいことがたくさんあった。けれど、無情にも人生は突然終わりを告げた。それなのに、気がつけば大学生の頃、初めて恵介と出会った、あの雨の日の鎌倉に立っていたのだ。
「白石さん、大丈夫ですか?傘、お持ちしましょうか?」
背後から聞こえた声に、双葉は息を呑んだ。ゆっくりと振り返ると、そこに立っていたのは、紛れもなく鬼頭恵介だった。優しげな眼差し、少しばかり憂いを帯びた表情。何もかも、あの頃のまま。
「…鬼頭、さん…?」
思わず声が震える。恵介は少し訝しげな表情を浮かべた。「はい、鬼頭です。白石さんとは、今日が初めてのはずですが…?どこかでお会いしましたか?」
双葉の胸が締め付けられる。彼は、何も覚えていない。
大学時代、双葉と恵介は恋に落ち、将来を誓い合った。しかし、卒業後、恵介は海外留学へ。すれ違いが重なり、二人の関係は徐々に冷え切っていった。そして、数年後、恵介は別の女性と結婚したのだ。
今、双葉は過去に戻り、あの頃の恵介を目の前にしている。運命を変えるチャンスが与えられたのだ。恵介との未来を、もう一度やり直せるかもしれない。
「…いえ、初めてです。ただ、鬼頭さんの声が、とても聞き覚えがある気がして…」
双葉は精一杯笑顔を作った。今ここで全てを打ち明けたとしても、恵介は信じないだろう。まずは、彼との距離を縮めなければ。
「そうですか。それは光栄です。もしよければ、この後、少しお茶でもいかがですか?雨宿りも兼ねて…」
恵介の誘いに、双葉は迷った。過去を変えるということは、未来も変えてしまうということ。本当に、恵介との未来を選んでいいのだろうか?
「…あの、すみません、少し考えさせてください」
双葉はそう言って、恵介から少し距離を取った。その時、双葉のスマートフォンが着信を告げた。画面に表示されたのは、『黒崎颯太』の名前。
黒崎颯太——彼は、双葉が過去に戻る直前まで、婚約していた相手だった。優しくて誠実な彼との結婚は、安定した幸せを約束されていたはずだった。けれど、双葉の心には、いつも恵介の面影がちらついていたのだ。
電話に出るべきか、無視するべきか。双葉は、紫陽花の咲き乱れる鎌倉の街で、運命の選択を迫られていた。