写真一枚で決まった結婚と、一生分の後悔
Chapter 1 — 写真一枚で決まった結婚と、一生分の後悔
「結婚してください」
春の柔らかな陽光が差し込むカフェで、真壁律はまるで天気の話でもするように、そう言った。私の目の前に置かれた桜のケーキが、まるで嘲笑うかのように甘く香る。まさか、幼馴染の律からこんな言葉を聞くことになるなんて、夢にも思わなかった。
私は千早日和、25歳。ごく普通の会社員だ。強いて言うなら、少しばかり恋愛運に見放されているくらいだろうか。何度か合コンに参加しても、良い出会いはなく、最近は仕事に没頭する日々を送っていた。まさか、そんな私に、こんな突拍子もない展開が待っているとは。
「え…律、今、なんて?」
動揺を隠せない私に、律は落ち着いた声で繰り返した。「だから、結婚してほしいんだ。日和となら、きっとうまくいくと思う」
律は、私の隣に座る、幼い頃からずっと一緒だった大切な友人だ。高身長で、顔立ちも整っており、女性にモテるタイプだが、特定の恋人を作ったことはなかった。真壁グループという大企業の御曹司であり、将来を嘱望されている。
「で、でも…どうして? 律には好きな人がいると思っていたし…」
私の言葉に、律は少しだけ目を伏せた。「好きな人は…今はいない。それに、僕には結婚しなければならない理由があるんだ」
「理由…?」
律は、静かに語り始めた。真壁グループは、近年、業績が伸び悩んでおり、政略結婚によって、別の企業と提携する必要があるのだという。相手は、高名な財閥の令嬢、神崎彩乃。しかし、律は彩乃に恋愛感情を抱いていない。むしろ、彼女の傲慢な態度に辟易しているらしい。
「日和なら、僕の気持ちを理解してくれると思った。それに、日和となら、家族として、温かい家庭を築ける気がするんだ」
律の真剣な眼差しが、私の心を揺さぶる。幼い頃から、律のことは特別な存在だと思っていた。しかし、それはあくまで友人として。まさか、結婚という形になるとは想像もしていなかった。
「少し、時間をください。すぐに答えられない」
私はそう言って、席を立った。カフェを出て、表参道の並木道を歩く。春の風が、私の頬を撫でる。頭の中は、律の言葉でいっぱいだった。政略結婚、御曹司、そして幼馴染。まるでドラマのような展開に、私は戸惑いを隠せない。
数日後、私は律の家を訪れた。彼の部屋は、シンプルだが洗練されたインテリアで統一されていた。窓からは、東京の夜景が一望できる。律は、ソファーに座って、私を迎えた。
「日和、来てくれてありがとう」
「律…あの、お話というのは?」
律は、深呼吸をして、真剣な表情で言った。「実は…彩乃さんのほうから、婚約破棄を申し出られたんだ」
私は驚いて、言葉を失った。「え…どうして?」
律は、苦笑いを浮かべた。「彼女には、別に好きな人ができたらしい。まあ、僕としても、彼女との結婚は乗り気ではなかったから、むしろ助かったんだけど…」
「でも、それなら、政略結婚の話は…」
「それが…彩乃さんの父親が、どうしても真壁グループとの提携を諦めないらしいんだ。それで…」
律は、言葉を詰まらせた。「彩乃さんの父親が、日和に会いたいと言っている」
次の瞬間、インターホンが鳴り響いた。律がドアを開けると、そこに立っていたのは、信じられない人物だった。「初めまして、千早日和さん。神崎彩乃と申しますわ」