悪役令嬢ですが、攻略対象が全員こっちを見てきます
Chapter 1 — 悪役令嬢ですが、攻略対象が全員こっちを見てきます
意識が浮上した瞬間、鼻をつく甘ったるい香りに顔をしかめた。見慣れない豪華な天蓋付きベッド、そして何よりも、自分の手が明らかに幼い少女のものになっている。
「……まさか、また?」
呟いた声は、記憶にある自分の声とは似ても似つかない。そうだ、これは夢じゃない。私はまた、別の世界に転生してしまったのだ。
前世は、ごく普通の日本の女子大生。交通事故で呆気なく命を落としたはずだった。しかし、次に目覚めたのは、乙女ゲーム『ロイヤル・スキャンダル』の悪役令嬢、イザベラ・ド・モンテスキューだった。血の色の髪と、氷のように冷たい青い瞳を持つ、傲慢でわがままな公爵令嬢。そして、ゲームのシナリオ通りなら、全ての元凶となり、最後は断頭台で処刑される運命。
それを回避するために、私はあらゆる手を使った。ゲームの知識をフル活用し、攻略対象である王子や騎士たちに近づかないようにし、ひたすら地味に、目立たないように生きてきたはずだった。
なのに、なぜ?
再び目覚めた私は、またしてもイザベラ・ド・モンテスキュー。ただし、今回は少し状況が違うようだ。部屋の調度品は以前よりも豪華絢爛。そして、鏡に映る自分の顔は、10歳にも満たない幼い少女のものだった。
「……一体、何が起こっているの?」
混乱する私に、ノックの音が響く。「イザベラ様、お目覚めでいらっしゃいますか? まもなく、お茶会の時間でございます」
ドアの向こうから聞こえるのは、侍女頭であるマリーの声。私は小さく答えた。「……今、起きたわ」
支度を終え、広間へ向かう。そこには、すでに多くの貴族の子女が集まっていた。華やかなドレスに身を包み、優雅にお茶を嗜む彼女たちの視線が、一斉に私に注がれる。
「あら、イザベラ様。ずいぶんと遅いではありませんか?」
意地悪そうな笑みを浮かべるのは、侯爵令嬢のエレノア。彼女は、ゲームでもイザベラのことを目の敵にしていた。
「少し、寝坊してしまったわ」
平静を装いながら答える。しかし、内心は焦っていた。なぜなら、この光景に見覚えがあったからだ。これは、私が初めてイザベラとして転生した時と全く同じ状況。つまり、私はまた、同じ時間を繰り返しているということになる。
「ふふ、相変わらずだらしがないわね。そんなことでは、将来、王太子殿下の妃になどなれませんわよ」
エレノアの言葉に、周囲からクスクスと笑いが漏れる。王太子妃。それこそが、イザベラの破滅の始まりだった。私は、絶対に王太子には近づかないと決めていたはずなのに。
その時、広間の扉が開き、一人の少年が入ってきた。金色の髪に、宝石のような青い瞳。その姿を見た瞬間、私の全身から血の気が引いた。
「遅れて申し訳ない。皆、待たせたな」
王子、セドリック。彼は、幼い頃から、私に婚約者として育てられた、攻略対象の一人。しかし、その瞳には、私を値踏みするような、冷たい光が宿っていた。
まさか、またこの悪夢を繰り返すことになるなんて……。私は、運命の螺旋から、抜け出すことができるのだろうか?
セドリックはゆっくりとこちらへ歩み寄り、私の目の前で立ち止まった。そして、信じられない言葉を口にしたのだ。
「イザベラ、君との婚約を破棄する」