紅茶に溶けた前世の記憶

Chapter 1 — 紅茶に溶けた前世の記憶

まさか、私が悪役令嬢だったなんて——。

温かい紅茶が喉を通る瞬間、頭の中に映像が流れ込んできた。豪華なシャンデリア、きらびやかなドレス、そして何より、冷酷な目で私を見下ろす攻略対象者たち。ここは、前世でプレイした乙女ゲーム『ロイヤル・スキャンダル』の世界。そして私は、主人公の恋路を邪魔する悪役令嬢、イザベラ・ド・モンテスキュー。

「イザベラ様、お茶のおかわりはいかがですか?」

侍女のリリーが心配そうに声をかけてくる。リリーの顔を見た瞬間、さらに記憶が鮮明になった。リリーは、私が破滅エンドを迎える原因の一つ。彼女を厳しく扱いすぎたせいで、最後は主人公側に寝返ってしまうのだ。

まずい。このままでは、婚約者の第一王子に婚約破棄され、国外追放、最悪の場合、処刑されてしまう。そんな未来、絶対に阻止しなければ!

「リリー、ありがとう。でも、今日はもう結構よ」

できるだけ優しく微笑んで答えた。リリーは驚いたように目を見開いている。いつもなら、「下がれ」と冷たく言い放つところだ。

私がイザベラに転生したのは、確か一週間前。それからというもの、毎日過去の自分——イザベラの悪行を思い出し、反省する日々を送っていた。しかし、具体的な対策を立てる暇もなく、今日は社交界デビューの舞踏会。

舞踏会の会場は、すでに熱気に包まれていた。華やかなドレスを身にまとった貴族令嬢たちが、思い思いに談笑している。その中心にいるのは、やはり第一王子のエドワード殿下。金髪碧眼の美しい王子は、まさにゲームの攻略対象そのものだ。

エドワード殿下の隣には、ヒロインのアメリアが寄り添っている。純粋無垢な瞳でエドワード殿下を見つめるアメリア。彼女こそが、私を破滅に導く張本人。

深呼吸をして、私はアメリアに近づいた。「アメリア様、初めまして。イザベラ・ド・モンテスキューと申しますわ」

精一杯の笑顔で挨拶をしたつもりだったが、アメリアは一瞬、怯んだように身を引いた。そして、エドワード殿下が鋭い視線をこちらに向けて——。「イザベラ、何の用だ?」

冷たい声が、会場に響き渡る。予想はしていたけれど、やはりエドワード殿下は私を嫌っている。でも、ここで怯んではいけない。私は、運命を変えるために来たのだから。

「殿下、少しお話が——」

言いかけた瞬間、会場の照明が全て消えた。悲鳴が上がり、あたりは一瞬にして暗闇に包まれる。そして、再び明かりが灯った時、アメリアの胸には、ナイフが突き刺さっていた。