義兄の視線が、熱すぎる件について
Chapter 1 — 義兄の視線が、熱すぎる件について
「京也…ごめんね。やっぱり、あなたとはもう会えない」
雨上がりの鎌倉。紫陽花が咲き誇る小道を、瀬戸京也は一人歩いていた。恋人の小春から突然告げられた別れの言葉が、頭の中でリフレインする。昨日まであんなに愛し合っていたのに、なぜ?理由も告げられず、一方的に別れを切り出された京也の心は、鎌倉の空模様のようにどんよりと曇っていた。
京也は、都内でも有数の大手企業、遠野グループの御曹司だ。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。誰もが羨む完璧な男。しかし、そんな彼にも人に言えない秘密があった。それは、小春が彼の会社の社長令嬢だったこと。そして、遠野グループと橘グループは、政略結婚の話が進んでいるということ。つまり、京也と小春の恋は、許されない恋だったのだ。
「まさか、お見合いの話が進んだのか…?」
京也は、スマホを取り出し、小春に電話をかけた。しかし、コール音だけがむなしく響き、小春は電話に出なかった。不安が募る京也は、小春の家に向かうことにした。タクシーに乗り込み、橘家の豪邸へと向かう。
橘家の門の前で、京也はタクシーを降りた。重厚な門扉は固く閉ざされ、近づく者を拒絶しているかのようだ。意を決してインターホンを押すと、すぐに小春の父親である橘社長が出てきた。
「瀬戸様…一体何の用でしょうか?」
橘社長は、冷たい視線で京也を見下ろした。普段はにこやかな笑顔を絶やさない橘社長だが、今はまるで別人のようだ。京也は、覚悟を決めて口を開いた。
「小春に会わせてください。理由を聞きたいんです」
橘社長は、鼻で笑うと、冷たく言い放った。「小春には会わせられません。彼女は、近いうちに遠野グループの御曹司であるあなたと結婚することになるのですから」
京也は、衝撃を受けた。やはり、政略結婚の話が現実味を帯びてきたのだ。小春は、自分の意思で別れを告げたのではない。父親に強制されたのだ。
「そんな…小春は、僕のことを愛しているはずだ!」
京也は、必死に訴えた。しかし、橘社長は冷酷な表情を崩さない。「愛などというものは、ビジネスの前には無力です。瀬戸様も、そのことはよくご存知のはずだ」
橘社長は、有無を言わさず門を閉ざそうとした。京也は、とっさに門扉に手をかけた。「待ってください!せめて、小春に一言だけ…」
その時、橘家の庭から、悲痛な叫び声が聞こえた。「お父様、やめて!京也さんに会わせてください!」
声の主は、小春だった。彼女は、窓から身を乗り出し、必死に京也に手を伸ばしていた。しかし、次の瞬間、橘社長が小春を力ずくで引きずり込んだ。そして、窓は固く閉ざされた。
京也は、絶望的な気持ちで橘家を見つめていた。小春の悲痛な叫び声が、いつまでも耳から離れない。
その夜、京也は眠れなかった。小春のことが頭から離れず、胸が締め付けられるように苦しい。どうすれば、小春を助けられるのか?どうすれば、この許されない恋を成就させることができるのか?
翌朝、京也は会社に出社すると、社長室に呼ばれた。待っていたのは、父である遠野グループの会長だった。
「京也、橘グループとの結婚話だが、お前も承知しているな?」
京也は、覚悟を決めて答えた。「はい。しかし、父さん、僕は…」
「言い訳は聞かない。遠野グループの未来のためだ。橘小春と結婚しろ」
父の言葉は、絶対だった。京也は、自分の運命を悟った。しかし、その時、父が信じられない言葉を口にした。「それに…小春さんの腹には、お前の子供がいるそうだ」