最悪な出会いから始まる最高の恋
Chapter 1 — 最悪な出会いから始まる最高の恋
降り止んだばかりの雨の匂いが、鼻腔をくすぐった。水溜まりに反射するネオンサインが、まるで宝石のようにキラキラと輝いている。こんな夜に、まさか彼と再会するなんて、夢にも思わなかった。
「…榊原?」
驚きのあまり、声が震えてしまった。目の前に立つのは、紛れもなく高校時代の宿敵、榊原悠真だった。あの頃から数年経っているはずなのに、相変わらず涼しげな顔立ちで、完璧なスーツを着こなしている。大手IT企業「ネクスト・イノベーション」のエリート社員だという噂は耳にしていたが、まさかこんな形で出会うとは。
「鬼頭か。こんなところで会うとは、奇遇だな」
悠真の声は、以前と変わらず冷たく、棘があった。高校時代、私たちは常にトップの座を争い、顔を合わせれば口論ばかりしていた。特に、最後の文化祭での出来事は、今でも忘れられない。私たちのチームは、それぞれ別の企画で競い合い、結果は僅差で私のチームが勝利した。しかし、悠真はそれを認めず、執拗に抗議してきたのだ。あの時の彼の顔は、憎悪に満ち溢れていた。
「奇遇、ね。私はここのカフェでアルバイトをしているの。あなたは?」
平静を装いながら、私はそう答えた。内心は激しく動揺していた。まさか、こんな形で再会するなんて。しかも、よりによって、あの榊原悠真と。
「ネクスト・イノベーションの新プロジェクトの打ち合わせだ。このカフェが、取引先の社長のお気に入りらしい」
悠真はそう言いながら、私をじっと見つめてきた。その視線は、まるで獲物を定めるかのように鋭い。私は思わず身を引いた。
「そう。お仕事、頑張ってね」
私はぎこちない笑顔でそう言い、逃げるようにカウンターに戻った。心臓がドキドキと高鳴っている。一体、彼は何を考えているのだろうか。
数時間後、閉店作業を終え、カフェを出ようとした時、店の前には一台の黒塗りの高級車が停まっていた。そして、その車の横には、悠真が立っていた。
「鬼頭、少し話がある」
悠真は低い声でそう言った。その声には、どこか命令口調が含まれていた。私は警戒しながらも、彼の言葉に耳を傾けた。
「実は、君に頼みたいことがあるんだ。今度、ネクスト・イノベーションの重要なパーティーがある。そこで、僕の恋人のふりをしてくれないか?」
私は息を呑んだ。一体、彼は何を企んでいるのだろうか。まさか、私を陥れようとしているのではないだろうか。しかし、彼の次の言葉は、私の予想を遥かに超えるものだった。
「もちろん、ただ頼むわけじゃない。君に、それに見合うだけの報酬を支払う。どうだ?」
悠真はニヤリと笑った。その顔は、まるで悪魔のようだった。私は彼の申し出に、戸惑いを隠せないでいた。なぜ、私が、あの榊原悠真の恋人のふりをしなければならないのか。そして、彼の真の目的は何なのか。私は、彼の甘い誘いに乗るべきなのだろうか——?