同窓会で再会したあの人は、まだ独身だった
Chapter 1 — 同窓会で再会したあの人は、まだ独身だった
「嘘…」
桜が舞い散る4月、高校の入学式からもうすぐ10年。花咲歩美、旧姓は水無瀬結衣(みなせゆい)は、同窓会の案内状を握りしめ、震えていた。差出人の名前は、月島祐介(つきしまゆうすけ)。
あの月島くんが、幹事…?
心臓が早鐘のように打ち始める。忘れようとした、甘くて苦い記憶が、鮮やかに蘇ってくる。
高校時代、結衣は月島祐介に恋をしていた。成績優秀、スポーツ万能、誰にでも優しくて、太陽のような笑顔が眩しい、学校中の人気者。結衣のような平凡な女子高生が、話しかけることさえ憚られるような存在だった。
それでも、一度だけ、奇跡が起きた。
夏祭りの夜、勇気を振り絞って告白したのだ。月明かりの下、月島くんは少し困ったように微笑んで、「ごめん」と一言。その時の彼の表情、言葉、空気、すべてが、結衣の心に深く刻まれている。
その失恋の後、結衣は必死で自分を変えようとした。大学に進学し、名前を変え、過去を封印した。新しい環境で、新しい自分として生きようと。
それなのに、なぜ今、彼が目の前に現れるのだろうか。
同窓会に出席すれば、必ず彼に会ってしまう。会いたくない。あの時の後悔と未練が、再び心を支配してしまうかもしれない。でも、欠席すれば、一生後悔するかもしれない。
揺れる気持ちを抱えたまま、結衣はクローゼットを開けた。着ていく服がない。10年前の制服は、もう着られない。
結局、淡いピンクのワンピースを選んだ。少しでも、あの頃の自分から変わったと思われたくて。でも、鏡に映る自分は、どこか自信なさげに見えた。
会場のホテルに着くと、懐かしい顔ぶれがちらほら。誰に声をかけていいのか分からず、結衣は隅の方で小さくなっていた。すると、背後から聞き覚えのある声がした。
「あれ、水無瀬…じゃなくて、花咲さん?」
ゆっくりと振り返ると、そこに立っていたのは、紛れもなく月島祐介だった。10年の歳月を経ても、あの頃の面影を残した、爽やかな笑顔。
「月島くん…」
声が震えるのを必死で抑えた。彼は、少し驚いたように目を丸くした。
「やっぱり、水無瀬さんだ。全然変わらないね」
変わったのは、名前だけなのに。
「ああ、そうだ。みんなに紹介するよ」
そう言って、月島くんは結衣の腕を取ろうとした。その時、壇上から、凛とした声が響き渡った。
「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます! 幹事の神崎です。今日は皆様に、重大な発表があります」
会場の視線が一斉に壇上に集まる。壇上に立っているのは、高校時代、生徒会長だった神崎彩乃(かんざきあやの)だ。相変わらず、美しくて、凛とした佇まい。
彼女は、ゆっくりと息を吸い込み、マイクを握りしめて、こう言った。
「実は…私、結婚することになりました!」
会場からは、祝福の拍手が沸き起こる。しかし、結衣は、その言葉を聞いた瞬間、全身が凍り付いたように感じた。なぜなら、神崎彩乃の視線が、まっすぐに月島祐介に向けられていたからだ。
まさか…?
結衣の脳裏に、過去の記憶が蘇る。文化祭の準備、体育祭の練習、放課後の教室…いつも、月島くんと神崎さんは、一緒にいた。
もしかして、あの時…?
結衣は、月島くんの顔を見た。彼は、神崎さんを見つめて、少しだけ微笑んだ。その笑顔は、10年前の夏祭りの夜、結衣に見せたのとは、全く違う、優しくて、温かい笑顔だった。
突然、強烈な吐き気に襲われた。結衣は、その場に崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えた。過去の過ちを繰り返してしまうのではないかという、恐ろしい予感が、彼女の心を締め付けた。