雨宿りの相手が日本一の御曹司でした

Chapter 1 — 雨宿りの相手が日本一の御曹司でした

「クビ、ですか…?」

雨の東京駅前。星野彩花は、信じられない思いで人事部長の言葉を反芻していた。つい一時間前まで、彼女は都内でも有数のIT企業で、広報部の一員として働いていたのだ。

「業績悪化に伴う、人員整理の一環だ。君の能力は認めているが…」

部長の言葉は、まるで他人事のように響く。能力を認められているなら、なぜクビなんだろう? 疑問は口に出せず、彩花はただ、雨に濡れる東京駅の風景をぼんやりと眺めることしかできなかった。

突然の解雇宣告。貯金は雀の涙ほどしかない。家賃を払ったら、一体どうやって生活していけばいいのだろう? 不安が津波のように押し寄せてくる。

空はますます暗くなり、雨足も強まってきた。彩花は、駅の軒下で雨宿りをすることにした。冷たい風が吹き込み、体が芯から冷えていく。

「こんなことなら、朝の天気予報をちゃんと見てくるべきだった…」

傘を持たずに家を出たことを後悔しながら、彩花は小さくため息をついた。すると、突然、頭上に傘が差し伸べられた。

「どうぞ」

低い、けれど甘い響きの声。驚いて顔を上げると、そこに立っていたのは、信じられないほど美しい青年だった。整った顔立ち、吸い込まれそうな深い瞳。まるで絵画から抜け出してきたような、非現実的な美しさだ。

「あの…」

彩花が言葉を失っていると、青年は微笑んだ。

「雨、強いですから。風邪を引かないように」

そう言って、彼は自分の傘を彩花に差し出した。

「でも、あなたも…」

「僕は、すぐそこに車が迎えに来るので大丈夫です」

青年はそう言うと、彩花に軽く会釈をして、雨の中へと歩き出した。その姿は、まるで映画のワンシーンのようだ。彩花は、彼の背中を見送りながら、傘を握りしめた。

しばらくすると、一台の漆黒のリムジンが青年の前に停まった。運転手がドアを開け、青年は優雅に車に乗り込んだ。その瞬間、彩花は信じられない光景を目撃した。

リムジンのナンバープレートには、見覚えのある数字が刻まれていた。それは、日本最大の企業グループ、早乙女グループの御曹司、早乙女純の専用車だと、週刊誌で読んだことがあったからだ。

「まさか…」

雨の中、高級車は水しぶきを上げて走り去っていく。彩花は、傘を握りしめたまま、ただ立ち尽くしていた。クビになった日に、日本一の御曹司と出会うなんて。まるでドラマのような展開に、彩花は戸惑いを隠せない。しかし、それ以上に、彼女の胸には、小さな期待が芽生え始めていた。なぜ、彼は私に傘を? ただの親切心? それとも…?

翌日、彩花はハローワークに向かった。求人情報を眺めていると、ふと、ある企業の募集要項に目が留まった。「早乙女グループ、広報部員募集」。

「早乙女…?」

昨日の雨の日の出会いが、頭をよぎる。まさか、こんな偶然があるのだろうか? 彩花は、迷わず応募ボタンをクリックした。もしかしたら、彼にもう一度会えるかもしれない。そんな淡い期待を胸に秘めて。

数日後、彩花は早乙女グループの面接に呼ばれた。緊張しながら面接会場に向かうと、受付の女性に案内されたのは、最上階にある、社長室だった。

「どうぞ、お入りください」

女性に促され、彩花は深呼吸をしてドアを開けた。そして、そこにいたのは…。