令嬢辞めたら、なぜか溺愛されています
Chapter 1 — 令嬢辞めたら、なぜか溺愛されています
シャンデリアの光が容赦なく私を照らし出す。まるで処刑台に立つ罪人のようだ。いや、違う。私は罪人そのものなのだから。
婚約者であるはずの、オーギュスト王太子が冷たい瞳で私を見下ろしている。「クラリス・ド・ヴァロワ、貴女の数々の悪行をここに糾弾する!」
オーギュスト様の声が、晩餐会の喧騒を切り裂いた。会場に集まった貴族たちの視線が、一斉に私に突き刺さる。ああ、始まった。この断罪の舞台が。私の破滅エンドが。
私はクラリス・ド・ヴァロワ。ヴァロワ公爵家の令嬢であり、この国の王太子、オーギュスト様の婚約者……だった、はず。少なくとも、前世の記憶が蘇るまでは。
思い出したのは、自分がプレイしていた乙女ゲーム『ロイヤル・ロマンス』のこと。そして、私がそのゲームに登場する悪役令嬢、クラリス・ド・ヴァロワその人だということ。
クラリスは、主人公である平民の少女、アメリーを執拗に虐め、オーギュスト様との婚約を邪魔する、まさに悪役。ゲームの結末は、アメリーと結ばれたオーギュスト様によって、国外追放か、最悪の場合は処刑という、悲惨なものだった。
前世の記憶が蘇った時、私は絶望した。このままでは、私は破滅する。そう確信した。
だから、私は変わろうとした。クラリス・ド・ヴァロワとして生きることを受け入れ、運命を変えるために、できる限りの努力をした。アメリーに嫌がらせをするどころか、彼女の才能を見抜き、密かに支援した。オーギュスト様にも、悪役令嬢のような傲慢な態度は取らず、礼儀正しく、控えめに接した。
それなのに……なぜ、こんなことになっているのだろうか。
「貴女は、アメリー嬢を何度も陥れようとし、彼女の才能を妬み、あらゆる手段を使って彼女を苦しめた!」
オーギュスト様の言葉は、事実とは全く異なる。私はアメリーを助けた。彼女が困っている時はいつも、影から支えていた。それなのに、なぜ、私が彼女を陥れたなどという濡れ衣を着せられなければならないのか。
「証拠もある!」オーギュスト様は、そう言い放ち、一人の女性を招き入れた。その女性は、震える足で私の方へ歩み寄ってくる。見覚えのある顔だ。アメリーだ。
アメリーは、涙を浮かべながら、震える声で言った。「クラリス様……わたくしを、いじめないでください……」
会場がざわめく。貴族たちは、私に向かって非難の言葉を浴びせてくる。嘘だ。全部嘘だ。私がアメリーをいじめるはずがない。彼女を助けてきたのは、この私なのに。
混乱する頭の中で、一つの疑問が浮かび上がった。なぜ、アメリーは嘘をついているのか? 彼女に、一体何があったのだろうか?
オーギュスト様は、アメリーを優しく抱き寄せ、私を冷たい目で睨みつけた。「クラリス・ド・ヴァロワ、貴女との婚約は破棄する。そして、ヴァロワ公爵家には、相応の罰を与えるだろう」
婚約破棄。ヴァロワ公爵家の没落。それが、私の運命なのだろうか。私は、結局、破滅エンドから逃れることはできないのだろうか。
絶望に打ちひしがれる私に、オーギュスト様は、さらに追い打ちをかけるように、冷酷な言葉を告げた。「そして、クラリス・ド・ヴァロワ、貴女には、この国の法律に基づき、死罪を言い渡す」
死罪……? そんな馬鹿な。ゲームでは、国外追放か、せいぜい投獄されるだけだったはず。なぜ、死罪などという、ありえない結末が待っているのか。
私は、オーギュスト様を睨みつけた。彼の瞳には、微塵の迷いもない。彼は、本気で私を殺そうとしている。なぜ? 一体、何が起こっているのか?
その時、会場の隅に、見慣れない男がいることに気が付いた。黒いローブを身にまとい、顔を隠している。その男の口元が、かすかに歪んだような気がした。
そして、その男の視線が、私と目が合った瞬間、背筋が凍り付くような、強烈な悪寒が走った。
男は、ゆっくりと口を開き、声を出さずに何かを呟いた。私には、その言葉が、はっきりと聞こえた気がしたのだ。「計画通り……」
その瞬間、私はすべてを理解した。これは、誰かが仕組んだ罠だ。そして、アメリーも、その罠の一部なのだと。
誰が? 何のために?
考えがまとまらないまま、私は、連行されるように、会場から引きずり出された。私の未来は、一体どうなってしまうのだろうか……?