初恋の人が、娘の担任になりました

Chapter 1 — 初恋の人が、娘の担任になりました

「雨宮統、あなたとはもう終わりにしましょう。」

倫子の声は、震えていた。豪華なシャンデリアが煌めく披露宴会場、祝福の拍手が鳴り止んだ瞬間、彼女の言葉は静寂を切り裂いた。白いウェディングドレスが、まるで彼女の絶望を象徴しているかのようだった。

五年前——大学の入学式。咲き誇る桜並木の下で、倫子は統と出会った。彼は大手IT企業「ネクサス・テクノロジー」の御曹司で、誰もが羨む存在だった。優しくて、頭が良くて、何よりも彼女だけを見つめる瞳に、倫子は惹かれた。

卒業後、倫子は地元の小さな出版社に就職し、統はネクサス・テクノロジーに入社した。二人の間には、いつも安定した愛情があった。忙しい日々の中でも、週末には必ずデートをし、将来を語り合った。プロポーズされたのは、クリスマスの夜。東京タワーの展望台で、彼は跪き、ダイヤモンドの指輪を差し出した。「倫子、僕と結婚してくれないか?」

幸せの絶頂だった。そう、あのメールを見るまでは。

差出人は不明。件名には「雨宮統の真実」とだけ書かれていた。添付された写真には、統が別の女性と抱き合っている姿が写っていた。場所は、彼が単身赴任している大阪のホテル。女性は、ネクサス・テクノロジーの社員だと書かれていた。

倫子は、統を問い詰めた。彼は最初は否定したが、次第に言葉を濁し始めた。「あれは、ただの…行き違いだ」

倫子は、統の言葉を信じることができなかった。証拠はあまりにも明白だった。彼女の心は、怒りと悲しみで引き裂かれた。しかし、結婚式は目前に迫っていた。両家の顔もあり、準備もすべて整っていた。倫子は、悩んだ末に、結婚式を挙げることを決意した。そして、披露宴の場で、統との別れを告げたのだ。

会場は騒然となった。統は、顔面蒼白になり、倫子に近づこうとした。「倫子、待ってくれ!話を聞いてくれ!」

「もう、何も聞きたくない。」

倫子は、ウェディングドレスを翻し、会場を後にした。タクシーに乗り込み、自宅へと向かう。車窓から見える夜景は、ぼやけていた。涙が止まらなかった。

自宅マンションに到着し、鍵を開けようとしたとき、背後から声をかけられた。

「真行寺さん、少しお話があります。」

振り返ると、そこに立っていたのは、ネクサス・テクノロジーの専務、黒崎颯太だった。彼は、統の腹違いの兄であり、会社のNo.2の地位にある人物だ。冷たい眼差しが、倫子を見据えていた。

「雨宮の件、残念でしたね。しかし、これは、あなたにとって、チャンスかもしれませんよ。」

黒崎は、薄く笑った。「雨宮グループの後継者争い。あなたを利用させてもらうことになります。」

倫子は、黒崎の言葉の意味が分からなかった。利用?一体何を企んでいるのだろうか。恐怖と混乱が、倫子の心を支配した。

「どういうことですか?」倫子は、震える声で尋ねた。

「簡単なことです。あなたは、雨宮統を破滅させるための駒になるのです。」黒崎は、さらに近づき、倫子の耳元で囁いた。「そして、その代償として、あなたは…私が手に入れます。」

その瞬間、倫子は背筋が凍るのを感じた。黒崎の言葉は、まるで悪魔の囁きのように、倫子の心に深く突き刺さった。彼が一体何を考えているのか、想像もできなかった。

数日後、倫子は黒崎に連れられ、ネクサス・テクノロジー本社へと向かっていた。高級車の中で、倫子は窓の外を眺めていた。東京の景色は、いつもと変わらないはずなのに、どこか違って見えた。まるで、自分が違う世界に足を踏み入れてしまったかのようだった。

黒崎は、倫子に一枚の書類を差し出した。「サインしてください。これは、あなたと私の間の契約書です。」

倫子は、書類に目を通した。そこには、驚くべき内容が書かれていた。それは、倫子が黒崎の「偽装恋人」になることを約束する契約書だった。期間は一年。その間、倫子は黒崎の指示に従い、雨宮統を陥れるための協力をしなければならない。そして、一年後、倫子は黒崎の「所有物」となる——。

倫子は、契約書を握りしめた。これは、一体何なのだろうか。まるで、悪夢を見ているかのようだった。

「断ったら…どうなりますか?」倫子は、必死に尋ねた。

黒崎は、冷たい笑みを浮かべた。「断る?そんな選択肢はありませんよ。真行寺さん。あなたは、もう私から逃れることはできない。」

倫子は、絶望に打ちひしがれた。彼女の人生は、一体どこへ向かっているのだろうか。

その時、車の助手席に置いてあった倫子のスマートフォンが鳴った。画面には「非通知」と表示されていた。倫子は、ためらいながらも電話に出た。

「…もしもし?」

電話の向こうから、低い男の声が聞こえた。「真行寺倫子さん、雨宮統は、あなたの知っている男とは違う。彼は…危険だ。あなたも、危ない。」

倫子は息を呑んだ。誰?一体何を知っているのだろうか。

「あなたは…誰ですか?」倫子は、震える声で尋ねた。

男は、答える代わりに、こう言った。「信じるか信じないかは、あなた次第だ。だが、雨宮には近づくな。さもないと…命はない。」

通話はそこで切れた。倫子は、恐怖で体が震えた。一体何が起こっているのだろうか?雨宮統の、別の顔?黒崎颯太の本当の目的?そして、この謎の電話の主は一体——

その夜、倫子は眠ることができなかった。頭の中は、様々な疑問と不安でいっぱいだった。そして、朝を迎えた時、倫子は決意した。自分の運命は、自分で切り開くしかない。そのためには、雨宮統の真実を暴き、黒崎颯太の陰謀を阻止しなければならない。そして、謎の電話の主を探し出す——。

しかし、倫子はまだ知らない。この決意が、彼女を更なる深淵へと突き落とすことを。

数週間後、倫子はネクサス・テクノロジーの社員として、雨宮統の部署に配属されることになった。黒崎の指示だった。倫子は、統のそばで、彼の秘密を探る任務を負うことになったのだ。再会した統は、以前と変わらず優しく、倫子に接してきた。しかし、倫子は彼の笑顔の裏に、何か隠されたものがあるのではないかと疑っていた。

ある日、倫子は統のデスクの上に、一枚の写真が置かれているのを見つけた。それは、数年前に他界したはずの、統の母親の写真だった。しかし、その写真の裏には、信じられない文字が書かれていた——。

「母は生きている。」

倫子は、息を呑んだ。雨宮家の、隠された秘密?それは、一体何を意味するのだろうか。倫子は、統に真相を確かめようとした。しかし、その時、背後から何者かに口を塞がれ、意識を失った——。

次に目を覚ました時、倫子は薄暗い部屋に監禁されていた。手足は拘束され、身動きが取れない。恐怖が、倫子の心を締め付ける。一体誰が、何のために?

すると、部屋のドアが開き、一人の男が現れた。それは、倫子が最も会いたくなかった人物だった——。

「やっと、目を覚ましましたか。」男は、冷たい笑みを浮かべた。「真行寺倫子さん。」