五年ぶりの「ただいま」が言えなくて

Chapter 1 — 五年ぶりの「ただいま」が言えなくて

降り止んだばかりの雨が、アスファルトの匂いを一層強くしていた。東京、表参道の並木道。高級ブランドのウィンドウに映る自分の姿は、どこか他人事のように感じられた。

三年——たった三年で、人はこんなにも変わってしまうものだろうか。あの頃の私は、もっと無邪気で、夢見がちだった。

「天城さん、お久しぶりです」

背後から聞こえた、聞き慣れた低い声。ゆっくりと振り返ると、そこに立っていたのは、鮫島晃だった。あの日の別れ際、二度と会わないと誓ったはずの男。

「鮫島…さん」

声が震えるのを抑えきれない。黒のスーツに身を包んだ彼は、以前よりも精悍さを増し、まるで別人のようだった。大手IT企業『ネクサス・ジャパン』の専務という肩書きが、彼をさらに遠い存在に感じさせる。

「まさか、こんな場所で会うとは思いませんでした」

晃の視線が、私を射抜くように見つめる。その瞳には、懐かしさとも、憎しみともつかない複雑な感情が宿っていた。

「私もよ」

そう答えるのが精一杯だった。三年前に交わした約束、そして、あの夜の出来事が、鮮明に蘇る。私、天城芽依は、晃の突然のプロポーズを受け、全てを捨てて彼と駆け落ちするはずだった。しかし、約束の場所には、彼は現れなかった。理由はわからないまま、私はただ、置き去りにされた。

「お元気でしたか?」

晃の言葉は、まるで他人行儀だった。まるで、私たちには何もなかったかのように。

「ええ、まあ…」

胸の奥が締め付けられる。三年間の空白は、あまりにも大きすぎた。今更、何を話せばいいのだろう。

「あの…」

私が何かを言いかけた時、一台の黒塗りの高級車が、私たちの目の前に停まった。運転席から降りてきたのは、見慣れない若い女性。彼女は晃の腕に親しげに絡みつき、満面の笑みで言った。

「晃さん、お待たせしましたわ。お父様が、今日の会食を楽しみにしていらっしゃいますの」

晃は、その女性に優しい笑みを返し、私の存在には一切触れずに、車に乗り込んだ。走り去る車の窓から、晃の視線が、一瞬だけ私を捉えた。その瞳の奥に、かすかな苦悶の色を見た気がした。

残された私は、ただ立ち尽くすしかなかった。あの時の裏切り、そして今の彼の姿。全てが、私の心を深く抉る。晃には、婚約者がいたのだ。それも、ネクサス・ジャパンの社長令嬢。

表参道の喧騒が、一層激しくなる。雨上がりの空は、どこまでも高く、そして、残酷だった。これから、私はどうすればいいのだろう。あの日の真実を、彼は語ってくれるのだろうか。それとも、この再会は、新たな悪夢の始まりなのだろうか。

その夜、芽依のスマートフォンが着信を告げた。画面に表示されたのは、見覚えのない番号。

「…もしもし?」

震える声で応答すると、電話口から、信じられない声が聞こえてきた。

「天城さん、助けてください。鮫島晃は…」