最強の悪女は二周目で恋をする

Chapter 1 — 最強の悪女は二周目で恋をする

「…嘘でしょう?」

豪華絢爛な舞踏会場に、信じられないほど間抜けな声が響いた。スポットライトを浴びているのは、私、伯爵令嬢エミリア・フォン・ライヒェンバッハ。婚約者である第一王子、セドリック殿下の腕に抱かれた見知らぬ娘を前に、人生最大のピンチを迎えていた。

だって、私は知っているのだ。この展開を。このセドリック殿下の冷たい視線を。そして、今にも泣き出しそうな顔で殿下に寄り添う、薄幸そうなヒロイン、リリアーナ・フォン・エーレンベルク。

そう、ここは乙女ゲーム『ロイヤル・スキャンダル』の世界。そして私は、主人公リリアーナを虐め抜く、悪役令嬢エミリアその人なのだ。

「エミリア、君の数々の悪行を、私はもう見過ごすことはできない」

セドリック殿下の声は、氷のように冷たい。会場に集まった貴族たちが、一斉に私に視線を向ける。好奇、軽蔑、嘲笑——様々な感情が入り混じった視線が、私の心を抉る。

「リリアーナ嬢に対する陰湿な嫌がらせ、身分を笠に着た傍若無人な振る舞い。そして、何よりも許せないのは、リリアーナ嬢が大切に育てていた庭の蜜柑の木を、枯らしてしまったことだ!」

蜜柑?そんなこと、全く覚えがない。そもそも庭に蜜柑の木があったことすら初耳だ。しかし、セドリック殿下の言葉は、断罪の宣告だった。

「よって、私はエミリア・フォン・ライヒェンバッハとの婚約を破棄する!そして、リリアーナ嬢こそが、私の真実の愛だと宣言する!」

会場は騒然となる。婚約破棄。それは私にとって、破滅を意味する。ゲームのシナリオ通りに進めば、私は修道院に送られ、一生をそこで終えることになるだろう。

「そんな…私が、蜜柑の木を…?」

言い訳をしようとした私の言葉は、嘲笑にかき消された。今、私に味方する者は誰もいない。絶望が、私の心を塗り潰していく。

その時、会場の扉が開いた。現れたのは、漆黒の軍服を身に纏った、近衛騎士団長、ラインハルト・フォン・シュヴァルツだった。彼の瞳は、冷たい炎を宿している。

「失礼ながら、セドリック殿下。エミリア様に対する断罪は、少々早急かと存じます」

ラインハルトは、ゆっくりと私に近づき、跪いた。

「エミリア様。どうか、私にお時間を頂けないでしょうか。必ずや、真実を明らかにして見せます」

彼の言葉に、一縷の望みを託した。しかし、次の瞬間、ラインハルトは信じられない言葉を口にした。

「…エミリア様は、三日前、庭の蜜柑の木に毒を盛る現場を、私が目撃いたしました」