十億円の婚約指輪と私の条件
Chapter 1 — 十億円の婚約指輪と私の条件
「三笠さん、今夜のパーティー、必ず成功させてくださいね。」
冷たい声が、背中に突き刺さる。振り返ると、そこにいたのは、常務の黒崎さん。切れ長の瞳が、獲物を狙う猛獣のようにギラリと光った。私は、大手IT企業「ミカド・システムズ」の広報部で働く、三笠七海。入社三年目、25歳。そして、今夜、グループ企業全体をあげての盛大なパーティーの責任者だ。
ミカド・システムズは、日本を代表する巨大財閥、御門グループの中核企業。その御曹司である椎名一真様が、次期社長としてお披露目される、重要な夜なのだ。成功すれば、私のキャリアは大きく開ける。失敗すれば……想像もしたくない。
会場は、表参道の高級ホテル。シャンデリアが煌めき、一流シェフによる料理が並ぶ。華やかなドレスを身にまとった人々が、グラスを片手に談笑している。私は、汗ばむ手を何度も拭いながら、会場内を駆け回った。音響のチェック、照明の調整、ゲストのアテンド……まるで戦場だ。
一真様は、まだ姿を見せていない。時間だけが、無情にも過ぎていく。緊張で胃がキリキリと痛む。
「三笠さん、少し、よろしいですか?」
背後から声をかけられ、振り返ると、そこに立っていたのは、予想外の人物だった。椎名一真様。漆黒のスーツに身を包み、涼やかな瞳で私を見下ろしている。噂通りの、完璧な美貌。しかし、その表情は、どこか冷たい。
「あの、椎名様。本日は、誠におめでとうございます」
深々と頭を下げると、一真様は、無表情のまま、私に近づいてきた。そして、耳元で囁いた。「君に、頼みたいことがあるんだ」
甘く、危険な香りのする声。その言葉に、私は全身を強張らせた。「今夜、僕の婚約者になってくれないか?」
予想外の言葉に、私は息を呑んだ。婚約者? 一体、どういうこと? 混乱する私の頭の中をよそに、一真様の瞳は、深く、熱を帯びていた。「もちろん、君には相応の報酬を支払う。これは、ビジネスだ」
彼の視線から逃れるように、私は一歩後ずさった。御曹司の、突然の申し出。それは、甘美な罠の匂いがした。しかし、同時に、抗えない魅力も感じてしまう。今夜、私は、プラチナの檻に囚われてしまうのだろうか……。
次の瞬間、会場の照明が落ち、スポットライトがステージを照らした。司会者の声が響き渡る。「皆様、大変お待たせいたしました! 御門グループ、次期社長、椎名一真様の登場です!」
一真様は、私に背を向け、ゆっくりとステージへと歩き出した。その背中を見つめながら、私は、どうすればいいのかわからずに立ち尽くしていた。彼の言葉は、一体何を意味するのだろうか? そして、私は、この誘いに乗るべきなのだろうか……? パーティー会場に、ざわめきが広がる中、私の心臓は、激しく鼓動を打っていた。