週末だけの恋人ですが、月曜も会いたくなりました

Chapter 1 — 週末だけの恋人ですが、月曜も会いたくなりました

「一ノ瀬さん、ちょっといいですか?」

金曜日の夕方、定時を知らせるチャイムが鳴り響く直前、部署内で一番クールな男、舞原蒼太に呼び止められた。

「はい、舞原さん。何かありましたか?」

大手IT企業「ネクスト・イノベーション」の広々としたオフィス。

京都の老舗旅館の娘である私は、東京での生活にも慣れてきたけれど、この会社のスタイリッシュな雰囲気には、いまだに少し緊張してしまう。

「実は…週末、恋人のフリをしてほしいんです」

舞原さんの低い声が、予想外の言葉を紡ぎだす。

「え…恋人のフリ、ですか?」

思わず聞き返してしまった。舞原さんが、そんな突拍子もないことを言い出すなんて。

「ええ。今週末、親戚の集まりがあって、どうしても恋人を連れてこいと言われてしまって…」

舞原さんは、いつも冷静沈着で、仕事も完璧にこなす。そんな彼が、困った顔をしているなんて、初めて見た。

「私で、よければ…」

なぜか、彼の頼みを断ることができなかった。もしかしたら、少しだけ、彼に興味があったのかもしれない。

「本当ですか?助かります。詳しいことは、また後で説明します」

舞原さんの表情が、少しだけ和らいだ。

週末。

舞原さんの実家に向かう新幹線の中で、改めて今回の経緯を聞いた。

「親戚は、僕が結婚しないことを心配しているんです。だから、恋人を連れて行けば、しばらくはうるさく言わなくなると思って…」

「なるほど…」

「一ノ瀬さんには、本当に感謝しています。今回の件は、あくまでも『恋人のフリ』ですから。誤解しないでください」

「わかっています」

舞原さんの言葉に、少しだけ胸が痛んだ。

彼の家は、都心から少し離れた、自然豊かな場所にあった。立派な日本家屋が、静かに佇んでいる。

「蒼太、遅かったじゃないか。その方が、お前の…」

玄関を開けると、着物姿の女性が出迎えてくれた。その視線が、私に向けられる。

「母さん、紹介するよ。一ノ瀬聖奈さん。僕の…」

舞原さんは、少し躊躇しながら、続けた。

「…恋人、だよ」

その瞬間、奥から一人の女性が現れた。物憂げな表情で、こちらを見つめている。その瞳には、信じられないほどの憎悪が宿っていた。

「あら、蒼太さん。ずいぶんと趣味の悪いお相手を選んだのね」