処刑エンド回避のため、王子の敵になります
Chapter 1 — 処刑エンド回避のため、王子の敵になります
目を開けた瞬間、目の前に広がったのは見慣れない豪華絢爛なシャンデリアだった。いや、見慣れないどころではない。明らかに自分の部屋ではない。
「ここは……どこ?」
思わず声に出して呟いた瞬間、頭の中に激痛が走った。走馬灯のように流れ込んでくる映像は、まるで別人の記憶。そして、その記憶が示すのは、私が今、乙女ゲーム『ロイヤル・スキャンダル』の悪役令嬢、イザベラ・ド・ヴァロワに転生してしまった、という衝撃的な事実だった。
『ロイヤル・スキャンダル』は、私が前世でプレイしていた学園恋愛シミュレーションゲーム。舞台は、魔法が息づく架空の王国、エリュシオン。主人公は、平民出身の少女が王立学園に入学し、様々な攻略対象と恋を育むという、王道ストーリーだ。そして、イザベラは、その主人公の恋路を邪魔する、高慢でわがままな公爵令嬢。最後は、全ての攻略対象から嫌われ、国外追放という悲惨な結末を迎える、いわゆる「破滅エンド」が確定している、最悪の立ち位置だった。
(嘘でしょ……私がイザベラに? そんなの、絶対イヤ!)
前世の私は、ごく普通の大学生。特に不幸な出来事もなく、平凡な人生を送っていたはず。それがどうして、こんな悪役令嬢に転生してしまったのだろうか。しかも、よりによって、破滅エンドが約束されたイザベラだなんて……。
混乱する頭を抱えながら、私は鏡の前に立った。そこに映っていたのは、金色の巻き髪に、吸い込まれそうな碧い瞳を持つ、絶世の美女。しかし、その表情は、どこか冷たく、傲慢さを感じさせる。確かに、ゲームのイザベラそのものだった。
(まずい……このままじゃ、本当に破滅エンドまっしぐらだわ)
イザベラの破滅エンドを回避するためには、まず、ゲームのシナリオを把握し、破滅フラグを折っていくしかない。幸いなことに、今はまだ、ゲーム開始前の15歳。王立学園に入学するまで、あと1年ある。その間に、イザベラの性格を改善し、周囲との関係を良好に保つことができれば、破滅エンドを回避できるかもしれない。
しかし、事はそう簡単には運ばない。イザベラは、エリュシオン王国でも有数の名門、ヴァロワ公爵家の令嬢。その立場ゆえに、周囲からの嫉妬や反感も大きい。それに、イザベラの性格は、ゲームのシナリオ通り、傲慢でわがままだ。今までの行いが災いし、周囲からの信頼も得られていない。
(一体、何から手を付ければいいの……?)
途方に暮れる私に、突然、部屋の扉がノックされた。「お嬢様、お時間です」と、控えめな声が聞こえる。声の主は、イザベラに長年仕えているメイドのソフィーだった。
「……わかったわ。すぐに行く」
私は、深呼吸をして、返事をした。今日から、私の悪役令嬢としての人生が始まる。破滅エンドを回避するために、私は、イザベラ・ド・ヴァロワとして、精一杯生き抜いてみせる。
しかし、私が部屋を出ようとしたその時、窓の外から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。「イザベラ様、お願いです! どうか、セシリアを許してください!」
その声の主は、ゲームの主人公、セシリアだった。なぜ、セシリアが今、ここにいるのだろうか? ゲームのシナリオでは、セシリアがヴァロワ公爵家を訪れるのは、ずっと先のはず。一体、何が起こっているのだろうか……。
私は、窓に近づき、下を見た。そこにいたのは、涙に濡れた瞳で、必死に訴えかけるセシリアの姿だった。そして、そのセシリアの隣には、見覚えのある青年が立っていた。エリュシオン王国の第一王子、攻略対象の一人、エドワードだった。
二人の様子から察するに、何か良くないことが起こっているのは間違いない。しかし、一体何が……?
次の瞬間、エドワードが冷たい視線をこちらに向け、口を開いた。「イザベラ、貴様には失望した。今すぐセシリアに謝罪しろ。さもないと、ただでは済まさんぞ」
エドワードの言葉に、私は全身を凍り付かせた。一体、私は何をしたのだろうか? まだ何もしていないはずなのに……。一体、何が起こっているのか、全く理解できないまま、私は、恐怖に震えるのだった。
そして、セシリアは私に向かって、はっきりと告げた。「イザベラ様、あなたのような人に、エドワード様を渡すわけにはいきません!」